第385章 あなたには有能な夫がいるじゃないか

高橋優奈の話を聞き終えると、氷室直人は手に持っていたコーヒーカップをテーブルに戻し、スマホを取り出してもてあそびながら、何気なく高橋優奈を一瞥した。「それで、高橋さんが今日私に会いたかった理由は何ですか？」

彼女は彼を見つめた。「確認できました。詩音と河合さんをホテルの部屋に閉じ込めたのはあなたのお父さんです」

男性はその言葉に少しも驚いた様子はなかった。「そうですか？でも彼らが自分から入らなければ、私の父が彼らを縛り上げて中に入れるとでも？」

「詩音を責めているの？」

「そうすべきではないですか？」

「じゃあ...彼女を助けないつもりなの？」

氷室直人は目を伏せ、淡々と言った。「高橋さん、正直に言いますと、確かに彼女に少し腹を立てていますが、私の父の策略が成功して彼女を根岸グループの社長の座から追い出すのを見たくはありません。しかし現状では...」

彼は一瞬言葉を切り、少し無力な笑みを浮かべた。「私が彼女を助けたくないのではなく...助けられないのです。あなたは私の父が彼女と河合を一緒に閉じ込めたことを知っているなら、彼の目的も分かるはずです。それは今のような状況を作り出し、根岸グループのすべての取締役を彼の側につけ、株主総会を開いて詩音を追い出し、長年狙っていた根岸グループの社長の座を奪うことです。そしてその後、大きなグループの名前を変え、根岸から氷室に。これからは...横浜の宝飾界のトップは、もはや根岸家ではなく...氷室氏になるのです」

高橋優奈は衝撃を受けた。

彼女はこの策略の背後にある真実を見抜けていなかった。

女性は目を伏せ、一時的に氷室直人に何を言えばいいのか分からなくなった。

氷室陽介と氷室直人の関係はずっとあまり良くなかった。

そして、彼の話し方から判断すると。

氷室陽介は氷室直人の言うことを気にかけないだろう。彼は野心に満ちた父親を説得できそうにない。

氷室直人はソファから立ち上がり、目の前で目を伏せている女性を見つめ、軽く笑った。「高橋さん、あなたは余計な心配をする必要はありません」

彼女は頭を垂れ、落ち込んだ様子で言った。「詩音を助けられないなら、心配しないわけにはいきません」

氷室直人はスマホをスラックスのポケットに入れた。