綾瀬光秀はドアを閉めると、主寝室へ向かおうとしたが、足を踏み出した途端に立ち止まった。
階下の明かりがまだついていることを思い出したのか、それとも女性の視線を感じたのか。
とにかく、彼は高橋優奈の方を見た。
一階のリビングと二階の書斎の距離は決して近くなく、二人とも相手の視線が自分に向けられていることはわかるものの、その瞳に宿る感情までは読み取れなかった。
視線が交わったような状態が約一分間続いた後、綾瀬光秀は視線を外し、主寝室へ向かった。
階下の女性は彼が主寝室に入ろうとするのを見て、慌ててソファから立ち上がり、小走りで階段を上った。
綾瀬光秀は彼女の慌ただしい姿を見て、足を止めた。
高橋優奈は最後に階段の上で立ち止まり、息を切らしながら足を止めた男性を見つめたが、しばらく何も言わなかった。
男性は階下でまだついているテレビに目をやり、また視線を戻して、目の前で大きく息をする女性を見た。
二人とも何も言わなかった。
そうして長い時間が過ぎた。
高橋優奈の呼吸が落ち着いても、彼女はさっきの状態のままで、一歩前に進む気配はなかった。
ある種のことは、すでに決断していても、やはり...口にするのが難しい。
長い沈黙の後、綾瀬光秀は女性を見て、試すように尋ねた。「何か話したいことがあるのか?」
高橋優奈は男性を見つめ、一瞬の後に首を横に振った。
彼は冷淡に視線を外し、ドアノブに手をかけ、部屋に入ろうとした。
しかしその瞬間、高橋優奈は駆け寄り、ドアを開けようとしていた男性の腕をつかみ、彼を見つめながら頷いた。「綾瀬さん、私...あなたに話したいことがあります。」
綾瀬光秀の視線は彼女の顔から、自分の手の上に置かれた彼女の手へと移った。
高橋優奈は彼の視線に気づき、すぐに手を引っ込めた。
彼女は彼を見つめ、繰り返した。「階下であなたをずっと待っていたんです。話したいことがあって。」
男性は頷き、表情からは感情が読み取れなかった。「話せ。」
高橋優奈は振り返り、リビングのソファの方向を見て、それから書斎の位置を確認してから、男性を見つめて言った。「階下で話しましょう、それとも...書斎で?」
綾瀬光秀は眉をひそめた。「さっき私が書斎にいた時、なぜ直接来なかったんだ?」