綾瀬光秀はドアを閉めると、主寝室へ向かおうとしたが、足を踏み出した途端に立ち止まった。
階下の明かりがまだついていることを思い出したのか、それとも女性の視線を感じたのか。
とにかく、彼は高橋優奈の方を見た。
一階のリビングと二階の書斎の距離は決して近くなく、二人とも相手の視線が自分に向けられていることはわかるものの、その瞳に宿る感情までは読み取れなかった。
視線が交わったような状態が約一分間続いた後、綾瀬光秀は視線を外し、主寝室へ向かった。
階下の女性は彼が主寝室に入ろうとするのを見て、慌ててソファから立ち上がり、小走りで階段を上った。
綾瀬光秀は彼女の慌ただしい姿を見て、足を止めた。
高橋優奈は最後に階段の上で立ち止まり、息を切らしながら足を止めた男性を見つめたが、しばらく何も言わなかった。