第44章 折木和秋のために

林知恵はうっとりとした折木和秋をちらりと見て、少し恍惚としていた。

しかし、学長や他の人たちが既に散会したので、この杯を最後の一杯として飲み干し、何か言い訳をつけて帰ろうと思った。

面子も保てるし、どうせ二日酔い防止の薬を飲んでいるから、小さな一杯くらいなら問題ないだろう。

彼女がグラスを受け取って飲もうとしたとき、背後のドアが開いた。

宮本深が冷気を纏って入ってきた途端、三人の表情は一気に引き締まった。

その中の一人が取り入るように言った。「三男様、唇が切れていますが、大丈夫ですか?」

宮本深は手を上げて触れながら、意味ありげに言った。「噛まれたんだ」

林知恵はそれを聞いて、頬が赤く染まった。

三人は彼が自分で誤って噛んでしまったのだと思い、気にせず頬杖をついている折木和秋を指さした。