お茶を淹れ終えると、林知恵はそれを持ってリビングへ向かった。
今日はめずらしく、こんなにも多くの人が集まって和やかな雰囲気だった。いつも厳格な宮本当主の顔にも笑みが浮かんでいた。
お茶を配り終えると、林知恵は山下穂子と宮本石彦の後ろに立ち、引き続き存在感のない人物を演じていた。
そのとき、宮本深が入ってきた。襟元には水滴の跡がまだ残っていた。
田中蘭華は不思議そうに声を上げた。「三男、あなたはいつも清潔好きなのに、服が汚れているわね?」
宮本深は座り、茶碗を手に取りながら林知恵をちらりと見て、淡々と言った。「猫にこすられたんだ」
田中蘭華はお茶を一口すすり、笑いながら言った。「その猫、面白いわね。あなたの口元にぶつかったの?」
宮本深はお茶を吹き、軽く返事をした。
「ああ。かなり力が強かった」
それを聞いて、林知恵はすぐに頭を下げた。熱気が波のように顔に押し寄せてきた。
しばらく雑談した後、宮本当主は昼寝をすると言い、皆は解散する準備をした。
「宮本深、私の部屋まで付き添いなさい」
「はい」
宮本深は立ち上がり、当主の側に寄り添って歩いていった。
ずっと俯いていた林知恵は、何となく視線が自分の体をかすめるのを感じた。
しかし彼女は顔を上げず、何事もないかのように立っていた。
だがその二秒間の視線は、折木和秋に捉えられていた。
折木和秋は手のフルーツフォークを握りしめたが、宮本家の人々に少しでも違和感を悟られるわけにはいかなかった。
彼女はやはり優しい笑顔を保ちながら言った。「みなさん、座ってもう少しお話ししませんか」
以前なら、彼女が宮本深の婚約者だということで、皆は付き合っただろう。
しかし今日では、記者会見での出来事があり、ほとんどの人は折木和秋が表面上見えるほど単純ではないことを理解していたので、様子見の状態だった。
結局、折木和秋が正式に嫁いでいない限り、彼女は宮本家の人間とは言えないのだ。
多くの人が適当な言い訳をして立ち去った。
折木和秋は面目を保てず、庭を散歩すると言って出ていった。
林知恵の前を通り過ぎる際、意味深な視線を投げかけてから去っていった。
最後に、リビングには山下穂子と林知恵だけが残った。