お茶を淹れ終えると、林知恵はそれを持ってリビングへ向かった。
今日はめずらしく、こんなにも多くの人が集まって和やかな雰囲気だった。いつも厳格な宮本当主の顔にも笑みが浮かんでいた。
お茶を配り終えると、林知恵は山下穂子と宮本石彦の後ろに立ち、引き続き存在感のない人物を演じていた。
そのとき、宮本深が入ってきた。襟元には水滴の跡がまだ残っていた。
田中蘭華は不思議そうに声を上げた。「三男、あなたはいつも清潔好きなのに、服が汚れているわね?」
宮本深は座り、茶碗を手に取りながら林知恵をちらりと見て、淡々と言った。「猫にこすられたんだ」
田中蘭華はお茶を一口すすり、笑いながら言った。「その猫、面白いわね。あなたの口元にぶつかったの?」
宮本深はお茶を吹き、軽く返事をした。