第88章 彼らの愛を聞く

数日後、折木和秋が田中悦子を攻撃している間に、林知恵は静かに自分のデザインを完成させた。

問題が起きないよう、彼女は自ら天田社長の会社へ届けに行った。

天田社長はジュエリーを満足げに撫でながら、眉を上げて林知恵を見つめた。「なぜ私があなたのデザインを別に注文したのか、知りたくないの?」

林知恵は自分の立場をよく理解していた。聞くべきでないことは聞かない。

彼女は淡々と微笑んで言った。「社長がお気に召せば良いことです」

天田社長は頬杖をつき、意味ありげに言った。「誰かが大損しているわよ」

「え?何ですか?」林知恵は理解できずに天田社長を見た。

しかし、天田社長は突然話題を変えた。「どうやって来たの?」

林知恵は少し間を置いて答えた。「タクシーです」

天田社長は口元を曲げ、目に少し艶めかしさを漂わせた。「じゃあ、誰かに送ってもらいなさい」

「いいえ、結構…」

林知恵が断る前に、天田社長はオフィスの中に向かって声をかけた。

「契約書まだ見終わってないの?出てこないと彼女が帰っちゃうわよ」

声を聞いて、林知恵は顔を上げてオフィスの方向を見た。

ドアが開き、深みのあるシルエットがゆっくりと歩み出てきた。

相手を見て、林知恵はもう笑顔を作れなくなった。

宮本深だった。

彼女は眉をひそめて後ずさりし、二人の距離を保とうとしたが、天田社長は彼女の腕をつかんだ。

天田社長は彼女に近づいて小声で言った。「どうしてそんなに他人行儀なの?私のアロマキャンドルが無駄になっちゃうじゃない」

アロマキャンドルと聞いて、林知恵は宮本深の前での自分の姿を思い出し、顔が熱くなった。

「私…あなたたちが話し合いをしているとは知りませんでした。邪魔してすみません、先に失礼します」

そう言って、彼女はエレベーターに向かって足早に歩き出した。

天田社長は宮本深の側に歩み寄った。「追いかけないの?怖がらせちゃったわね。今度は花火じゃなくて、いっそ爆竹でもやったら?」

宮本深は黙ったまま、林知恵の後を追った。

天田社長は何かを思い出したように、宮本深に向かってジュエリーを振った。「三男様、ありがとう。林知恵に今夜のニュースを見るよう伝えてね」

……

エレベーター前。

林知恵は何度もボタンを強く押したが、エレベーターは動かなかった。