チン。
エレベーターのドアが開き、明るい廊下が現れた。そこに立って両側のガラス壁を通して見ると、ビルの内部を見下ろすことができた。
廊下の突き当たりには無垢材の両開きの大きなドアがあった。複雑な模様はなかったが、威厳が漂っていた。
アシスタントが慎重にドアを開けると、林知恵の目に飛び込んできたのは200平方メートルの広々としたオープンスペースの二層式オフィスだった。
一面のガラス壁からは、周囲のほぼすべての建物を見下ろすことができた。
螺旋状に上る階段の先は、おそらく宮本深のプライベートエリアだろう。
林知恵は陽光に満ちたタイル床を見て、少し圧倒された。
これが実は彼女が初めて宮本深の仕事の領域に触れる機会だった。
傍らの小さな会議テーブルにいた宮本石彦は、物音を聞くとすぐに立ち上がった。
「知恵、来たのか」
林知恵は我に返り、保温バッグを差し出した。「おじさん、お弁当持ってきたわ」
「やはり娘は気が利くな」
宮本石彦は笑顔で彼女の保温バッグを受け取った。
座ろうとしたとき、彼は林知恵の手にまだ何かがあるのに気づいた。
「これは何だ?」
「叔父さんに返す服よ。昨日私が薄着だったから貸してくれたの。どうせあなたにお弁当を届けに来るから、ついでに持ってきたわ」
そう言いながら、林知恵は辺りを見回したが、宮本深の姿は見当たらなかった。
宮本石彦は彼女の視線に気づき、言った。「三男は上の階で点滴を受けている」
ここで?
そんなに無理してるの?
林知恵は一瞬躊躇し、心の中で複雑な感情が湧き上がった。
しかし理性が、揺らいではいけないと告げていた。
彼女は服の入った袋をソファに置き、景色を眺めるふりをして宮本深のデスクに近づいた。
デスクはとても整頓されており、書類が整然と並べられ、側面には注釈がついていた。
彼女は何度も探したが、天田社長が言っていたプロジェクトは見つからなかった。
本棚も丹念に探したが無駄だった。
宮本深のところにないはずがない。
もうすぐ契約を結ぶはずだし、彼の慎重な性格からして、必ず常に注意を払っているはずだ。
もしかして……
林知恵は上の階を見上げた。
このとき、宮本石彦は食事を終え、片付けながら保温バッグの中にまだ何かあるのに気づいた。「知恵、三男に会いに来たのか?」