第153章 何もなくなった

しばらくして、病室の外。

宮本当主と宮本深が外に向かって歩いていた。父子二人は左右に並び、威厳に満ちていた。

当主は手を後ろに組み、静かに言った。「昨夜、和秋と一緒だったのか?」

「ああ」

宮本深は短く答えた。

当主は頷いた。「お前ももう若くない。心を落ち着けて家庭を持つ時だ。折木和秋が鉱山の問題を解決したら、折木家をそれ以上追い詰めるな」

「わかった」

「もういい、見送りはいい。和秋のところに戻って、他のことに気を取られるな」

当主は多くを語らなかったが、この短い言葉の中に込められた深い意味を宮本深は理解していた。

エレベーターのドアが閉まると、田中慎治が隣のドアから出てきた。

「三男様、管理人は確かに昨日の道路の監視カメラを調べました」

「宮本康弘だな」

宮本深は窓際に立ってタバコに火をつけた。半開きの目は指先から立ち上る煙の中にぼんやりと霞んでいた。

全身から危険な雰囲気を漂わせ、黒い瞳は深く暗く燃えていて、長年彼に従ってきた田中慎治でさえ背筋が凍るのを感じた。

まるで何か恐ろしいものが周囲に広がっているかのようだった。

田中慎治は唾を飲み込み、しばらく考えた末、背後から何かを取り出した。

マフラーだった。

「三男様、これは林さんが私に投げたものです。次回渡したら...燃やすと言っていました」

宮本深はマフラーを受け取り、無表情に言った。「行こう」

「折木さんは...」

田中慎治は折木和秋の病室を指さしたが、宮本深の冷たい視線を見て、すぐに口を閉じてエレベーターのボタンを押した。

階下に降りて車に乗り込む。

田中慎治はすぐに車の座席にある安っぽいマフラーを片付けようとした。

「よこせ」宮本深は林知恵のマフラーを取り、代わりに自分の高価なマフラーを田中慎治に渡した。「しまっておけ」

田中慎治は一瞬戸惑ったが、カシミアのマフラーを丁寧に畳んで箱にしまった。

宮本深は目を伏せ、すべての感情を隠した。

指先でマフラーを軽くなでる。化学繊維の感触は少し硬かったが、何かの残り香がまだ残っているようだった。

……

林知恵は山下穂子の手を引いて歩き、山下穂子はずっと泣き続けていた。

最後には人が多い場所に行くのも怖くなった。

人気のない小さな公園で立ち止まるしかなかった。