林知恵は山下穂子について屋敷に入った。
道中で多くの宮本家の人々に出会ったが、山下穂子が一人一人に挨拶をしても、彼らは母娘に対して素っ気なかった。
それどころか、以前よりも冷たくなっていた。
林知恵は眉をひそめて言った。「お母さん、婚約の贈り物が取り替えられた件は解決したんじゃないの?彼らはまだあなたを困らせているの?」
「そうじゃないのよ。私が当主に家政婦の仕事を辞めたいと頼んだからよ」と山下穂子は苦笑いした。
「どうして?あなたはずっと自分を表現したいと思っていたじゃない?」林知恵は驚いた。
「知恵、婚約の件であなたに迷惑をかけてしまったわ。今は割り切れるようになったの。どうせ蘭子の立場なら、結婚したら遅かれ早かれ家政を任されるわ。彼女はいい人だし、私を困らせたりしないでしょう」
山下穂子の桑田蘭子に対する評価はとても高かった。
しかしその言葉は針のように林知恵の心臓に深く刺さり、痛みで麻痺するほどだったが、傷口は見えなかった。
彼女が桑田蘭子を妬んでいるわけではなく、罪悪感を感じていたのだ。
桑田蘭子の話をしていたら、ちょうど彼女がやってきた。
彼女は薄いグレーのヘリンボーン柄のコートを着ていた。そのデザインはとても見覚えがあった。
林知恵は目を輝かせ、思い出した。今日の宮本深のコートも同じデザインだった。
桑田蘭子は彼女の視線に気づいたようで、腕を上げて生地に触れた。「どう?素敵でしょ?わざわざお揃いで作ったの」
「素敵ね」
林知恵はうなずいたが、桑田蘭子の目をまともに見ることができなかった。
桑田蘭子は二つの箱をそれぞれ山下穂子と林知恵に渡した。
「お義姉さん、新年のプレゼントよ」
「蘭子、気を遣わないで、もう家族なんだから」
山下穂子は箱を開けると、カシミアのショールが入っていた。高級で上品で、彼女は喜んで肩にかけた。
桑田蘭子は笑いながら林知恵の手にある箱を軽くたたいた。「ある人があなたのために選んだの。気に入らなかったら彼に文句を言ってね」
「誰?」林知恵は一瞬反応が鈍かった。
「ハハハ、誰って?私の兄が聞いたら血を吐くわね」桑田蘭子は気にせず冗談を言った。
林知恵はようやく理解し、少し恥ずかしそうにした。
「あの...桑田社長、ありがとう」