階下。
田中慎治は宮本深がこんなに早く降りてくるとは思わなかった。急いで車から降りて前に出ると、彼の手にはまだ持っていった書類があることに気づいた。
「三男様、林さんは受け取りたくないのですか?でもあの学校は彼女が一番行きたかった所ではないですか?」
「彼女が進学したいと知った最初の時点で学校に連絡を取り、何とか頼み込んでようやくこの面接の機会を得たんだ。」
宮本深は書類を田中慎治の胸に押し込んだ。「何とか彼女に伝えてくれ、私が手配したことは知らせないように。」
「三男様……」
宮本深は返事をせず、真っ直ぐに車に乗り込んだ。
田中慎治はため息をつき、車を走らせた。
……
林知恵は翌日、また桑田剛から花を受け取った。
ただし今回は明らかに大胆になっていた。以前送られてきた花はほのめかす程度だった。
今回は直接大きな束の洛神のバラだった。
淡いピンク色が、オフィスを一気に明るくした。
林知恵は花を整え、花を抱えて自撮りし、桑田剛に送った。
「尊敬する花屋VIP桑田社長、あなたの花が届きました。」
「人の方が花より美しい。」
桑田剛の率直さに、林知恵は思わず笑みがこぼれそうになった。
しかし彼女が笑う前に、同僚のからかいの声で中断された。
「知恵、もう言い訳できないでしょ?これは恋人に贈る花よ。」
林知恵は否定せず、説明しようとしたところ、隣から誰かが立ち上がった。
葉山姫奈だ。
彼女は林知恵の手にある花を眺め、皮肉っぽく言った。「知恵、みんな好意でいってるのよ。あなたはいつもはぐらかしてるけど、もしかして花を送ってくる男性はみんな別人なんじゃない?きれいな人は違うわね。」
この言葉を訳すと、林知恵が不特定多数の男性と関係を持っているということだ。
実際、林知恵がはっきり言わなかったのは桑田剛の立場を考慮してのことだった。
もし恋人関係にならなかった場合、花を送ったことを話題にされるのが怖かったのだ。
今となっては、言わなかったのは正解だったようだ。
なぜなら、葉山姫奈の言葉で、多くの同僚の視線が変わってしまったから。
「知恵、うちの会社は確かに金持ちと接する機会が多いけど、変な考えを持たないでね。」ある同僚はまだ丁寧に忠告した。
しかし葉山姫奈におべっかを使う同僚は容赦なかった。