第305章 一人の友人

田中慎治は傍らに立ち、宮本深の指示を待っていた。

宮本深は何も言わず、手を伸ばしてライターを探したが、しばらく探しても見つからなかった。

田中慎治はポケットからライターを取り出して彼のタバコに火をつけた。

宮本深はタバコを一気に吸い込み、その顔には沈黙と陰鬱な表情が浮かび、指の間の火花さえも微かに震えていた。

しばらくして、彼はようやく薄い煙越しにゆっくりと口を開いた。「行ってくれ」

「はい」

田中慎治は心配そうに宮本深を一瞥してから、木村悦子を探しに行った。

しかし木村悦子のオフィスには誰もいなかった。

電話をかけてみると、彼女は外来棟で病院のイベントを手伝っていることがわかった。

向こうはかなり騒がしく、木村悦子は叫ぶようにしてやっと会話ができる状態で、このような状況では話し合いは無理だった。