第305章 一人の友人

田中慎治は傍らに立ち、宮本深の指示を待っていた。

宮本深は何も言わず、手を伸ばしてライターを探したが、しばらく探しても見つからなかった。

田中慎治はポケットからライターを取り出して彼のタバコに火をつけた。

宮本深はタバコを一気に吸い込み、その顔には沈黙と陰鬱な表情が浮かび、指の間の火花さえも微かに震えていた。

しばらくして、彼はようやく薄い煙越しにゆっくりと口を開いた。「行ってくれ」

「はい」

田中慎治は心配そうに宮本深を一瞥してから、木村悦子を探しに行った。

しかし木村悦子のオフィスには誰もいなかった。

電話をかけてみると、彼女は外来棟で病院のイベントを手伝っていることがわかった。

向こうはかなり騒がしく、木村悦子は叫ぶようにしてやっと会話ができる状態で、このような状況では話し合いは無理だった。

田中慎治は彼女を探しに行くと言って電話を切った。

外来棟に着くと、朝はまだ晴れていた天気が突然の大雨に変わった。

田中慎治は眉をひそめ、木村悦子を探しに行こうとしたとき、一台の車が止まった。

「やあ、田中アシスタント」

車の窓がわずかに開き、その声を聞いた田中慎治はすでにイライラし始めていた。

山田照夫だ。

彼は窓を下げ、後部座席の二人を見せた。

桑田剛と林知恵だった。

田中慎治が挨拶する前に、林知恵は突然スマホを持って嬉しそうに叫び、桑田剛の手をつかんだ。

「あっ!私が一番行きたかった学校からオンライン面接のお知らせが来たわ!あの学校がどれだけ難関か知ってる?たくさんの人に相談してやっと応募する勇気が出たのに、まさか返事がもらえるなんて」

「その学校はちょっと遠いな」桑田剛は返信メールを見た。

林知恵はすぐに我に返り、自分の反応が興奮しすぎていたことに気づいた。

彼女は以前、桑田剛が選んだ学校に行くと約束していたのだ。

「実際、面接に通るかどうかもわからないし」

「僕のことは考えなくていい。君の将来が一番大事だから」桑田剛は笑った。

「ありがとう、後でご馳走するわ」

林知恵はあまりにも嬉しくて、言い終わってから窓際にまだ田中慎治が立っていることに気づいた。

彼を見ると、どうしても某人のことを思い出してしまう。

彼女は笑顔を引き締めた。「田中アシスタント」