第309章 憎んでも憎みきれない

千載一遇の危機に、林知恵の体は誰かにしっかりと抱きしめられ、勢いよく道端に転がった。

周りの通行人の悲鳴が次々と上がる中、彼女の耳には自分の呼吸音の他に。

男性の苦しそうな呻き声だけが聞こえた。

彼女は無意識に男性の服をしっかりと掴んでいた。

男性は彼女の恐怖を察したのか、さらに強く抱きしめた。「怖がらないで、まず立ちましょう」

その声を聞いて、林知恵は我に返り、顔を上げて男性を見つめた。心の中は複雑な思いでいっぱいだった。

宮本深だった。

彼女の気のせいかもしれないが、彼の唇が少し青白くなっているように見えた。

「あなた...」大丈夫？

彼女が口を開こうとした時、親切な通行人が駆け寄って彼らを助け起こそうとした。

「大丈夫ですか？」

林知恵は首を振ったが、言おうとしていた言葉は最後まで口にできなかった。