ぼんやりとした中で、林知恵の前に一枚のティッシュが現れた。
彼女が断ろうとした瞬間、手の甲に湿り気が落ちてきた。
「ありがとう」彼女は声を押し殺して言った
「彼は大丈夫だから、先に出ましょう」木村悦子は慰めるように言った。
林知恵はうなずき、顔を乱暴に拭きながら、足早に寝室を後にした。
木村悦子と一緒に出てきたのは田中慎治もだった。
田中慎治は顔色が良くなかったが、彼のプロ意識はまだ健在だった。
彼は林知恵の前に歩み寄り、申し訳なさそうに言った。「林さん、すみません。感情的になるべきではありませんでした」
林知恵は首を振り、逆に尋ねた。「私の周りにはずっとこういう人がいたの?」
「ええ」田中慎治は説明した。「入るのは簡単だが、出るのは難しい。この世で脅威にならないのは死人だけだ」