第382章 林知恵、私と行かないか?

山下穂子は林知恵のスーツケースを閉めるのを手伝っていたが、彼女の質問を聞いて、自分の手を挟んでしまった。

「あっ!痛い!」

山下穂子の指は赤くなり、顔色も悪くなった。

林知恵は急いで冷蔵庫から氷嚢を取り出して冷やしてあげた。

「お母さん、どうしたの?ぼんやりしてるみたい。」

「何でもないわ、彼女が言っていたのは私たちと一緒に働いていた別の同僚のことよ、もう辞めちゃったの。あなたも知ってるでしょう、この仕事は若さが売りだから、本社から若くて綺麗な子が派遣されてきたら、私たちにはどうしようもないわ。」

山下穂子は氷嚢を押さえながら、頭を下げていて、表情がまったく見えなかった。

林知恵は気にせず、自分でしゃがんでスーツケースを持ち上げようとした。

山下穂子は驚いて「動かないで、まだ三ヶ月も経ってないのに、そんな重いものを持ったら問題が起きるわよ。」

「重くないよ。」林知恵は説明した。

「だめ、私がやるわ。」

山下穂子は彼女のスーツケースを奪い取って部屋に運んだ。

突然、部屋から山下穂子の声が聞こえた。

「どうして棚に鍵がかかってるの?中のものを確認した方がいいんじゃない?」

林知恵は一瞬固まったが、何気なく言った。「必要ないよ、中のものは持っていかないから。」

山下穂子はああと声を出した。

片付けが終わり、山下穂子は帰ろうとした。

林知恵は小さな箱を取り出して彼女に渡した。「お母さん、私がいなくなったら、これを彼に渡してくれる?」

山下穂子は一瞬驚いたが、うなずいた。「わかったわ。」

林知恵は彼女の髪を整えながら言った。「お母さん、私があなたのそばにいなくても、渡辺青葉には気をつけてね。あの漢方薬は飲んでいるふりをして、少なくとも彼女はあなたを害する別の方法を考えないでしょう。」

「わかったわ、私は先に帰るわね、あなたも体に気をつけて。」

山下穂子は名残惜しそうに林知恵を抱きしめてから去った。

……

婚約パーティー。

林知恵と桑田剛の婚約は以前よりも控えめで、親しい人たちだけを招待した。

しかし宮本家に知らせるために、桑田剛は自分の婚約のニュースを流した。

婚約者の説明として、彼は宮本石彦と山下穂子の娘と言及した。