第388章 彼女を探さないで!

空港。

桑田剛は林知恵のスーツケースを手に取った。

「知恵、本当に申し訳ない。蘭子がこんなに愚かだとは思わなかった」

「大丈夫よ、どうせ行くことになったし、こんなに早く出国の準備をしてくれてありがとう」

林知恵の目は非常に穏やかだったが、視線は常に空港の外に向けられていた。

桑田剛は彼女がまだ未練があることを知っていた。育った場所への未練か、家族への未練か、あるいはあの人への未練か。

彼は慰めるように言った。「電話で一言言っておく?」

林知恵は視線を戻し、首を振った。「いいの、母は泣き虫だから、一度泣き始めたら止まらないわ。それは聞けない」

そう言いながらも、彼女の声はわずかに詰まっていた。

母親との別れさえできないのに、どうして彼女が口で言うほど気楽でいられるだろうか?

桑田剛は彼女が落ち着くのを待ってから、ゆっくりと言った。「行こう。山田照夫にラウンジに案内させよう。一般の人は入れないところだ」

話しながら、桑田剛は自然に林知恵のスーツケースを受け取った。

押し始めた時、手が少し止まった。

「君のスーツケース、なんでこんなに軽いの?」

「ほとんどの荷物は預けたわ。これは着替えだけよ。先に入っていて、私はトイレに行ってくるわ」林知恵は安心してスーツケースを桑田剛に預けた。

桑田剛は彼女が心の中で辛いことを知っていて、おそらくトイレで気持ちを整えたいのだろうと思い、うなずいた。

「行っておいで、中で待っているよ」

林知恵はすぐには立ち去らず、彼を見て穏やかに微笑んだ。「桑田社長、ありがとう」

そう言い残して、彼女は背を向けて去った。

桑田剛は彼女の後ろ姿を見て、何か違和感を覚えた。

そして、彼がラウンジに座り、10分、30分、1時間が経過しても…

アナウンスが二度繰り返されたが、林知恵はまだ戻ってこなかった。

山田照夫は異変に気づき、眉をひそめて言った。「少爺、もう搭乗時間です。林さんを探してきます」

桑田剛は手を上げて止め、林知恵が残したスーツケースに手を伸ばした。

パスワードが000だと気づくと、すぐにスーツケースを開けた。

案の定、中には綺麗なカード一枚以外何も入っていなかった。

「ありがとう」

桑田剛はその文字を撫でながら、思わず笑みを浮かべた。