林知恵は前世で、深田紅と折木和秋の共謀によって、多くのデザイン案を失ったことがあった。
だから彼女は今世では特に慎重になっていた。
席を離れるときは必ずパソコンをロックし、廃棄する手書きの原稿でさえ専用の引き出しに入れ、自分の鍵で施錠していた。
しかし、それでも狙われていたとは思いもよらなかった。
林知恵は周囲を見回したが、誰が彼女のパソコンに触れたのか確信が持てなかった。
だから彼女は草を叩いて蛇を驚かせるようなことはしないつもりだった。
午後のティータイム、同僚たちはいつものようにコーヒーに合うお菓子を注文した。
林知恵は進んで階下に出前を取りに行った。
荷物を受け取った後、彼女は別に注文しておいたブラックフォレストケーキを受付の前に置いた。
受付は少し驚いた様子で「これ、私に?」と聞いた。
「うん、昨日友達のために救急車を呼んでくれてよかったわ。彼女とお腹の子に何かあったら、私本当に申し訳なくて...」
理由があれば、受付は喜んでスイーツを受け取った。
「大丈夫よ、実は私もあなたが無茶をするとは思ってなかったし、すべてが明らかになってよかったわ」
林知恵はうなずき、そして偶然を装って隣の監視室に目をやった。
彼女は小声で言った。「昨日の入り口での騒動、監視カメラに全部映ってるはずだけど、何か問題ない?」
受付はブラックフォレストを一口食べ、首を振った。「安心して、監視室は施錠されてるから、普通の人は入れないわ」
林知恵は好奇心を装って「つまり、入れる人もいるってこと?」と尋ねた。
受付はあまり気にせず「うん、時々オフィスの人が物を無くしたりすると、警備員と一緒に入って監視カメラをチェックすることがあるわ。だって私たちはジュエリーデザイン会社だから、何を失っても賠償できないもの」
「そうね、じゃあ最近誰か物を無くした人いる?」と林知恵は尋ねた。
受付は数秒考えてから、突然「あっ」と声を上げた。
「いるわ、一昨日、草刈栞が自分のダイヤモンド付きの万年筆をなくしたって言ってた。去年の誕生日に自分でデザインしたものだって。警備員が彼女と一緒に入って録画を見て、後で見つかったって言ってたわ。どうしたの?何かなくしたの?」
林知恵は笑いながら首を振った。「ううん、もう行くね、これを上に持って行かなきゃ」
「わかった」