林知恵が我に返った時、クライアントはすでに立ち上がって帰る準備をしていた。
彼女はすぐに笑顔に切り替え、クライアントを見送った。
まだ座り直す前に、彼女の手がしっかりと握られた。
「行こう」宮本深が言った。
林知恵は反射的に周囲を見回し、手を振りほどきながら言った。「ここは人が多いわ、早く離して」
ネットで話題になった後、彼女は今や京渡市の有名人になりつつあった。
さっきクライアントが入ってきた時も、彼女をじっと見ていた。彼女の専門知識が確かでなければ、この契約は成立しなかっただろう。
彼女の手が少し離れかけたとき、また彼に掴まれた。
「知恵、今日は太陽がいいから、外に連れ出したい」
「な...に?」
林知恵は一瞬言葉に詰まり、目を思わず大きく見開いた。
以前、彼女はいつも宮本深が彼女を日の光の下に連れ出すことは決してできないと言っていた。
彼はそれを覚えていたのだ。
反応する間もなく、彼女は宮本深に手を引かれて外に出た。
太陽の光が心地よく、人の体に当たると特に気持ちよかった。
この数日は嫌なことが多かったが、それでも思わず笑みがこぼれた。
宮本深は彼女の徐々に明るくなる顔を見下ろし、彼の口角も少し上がった。
そのとき、田中慎治が車を停めた。
「行こう」宮本深がドアを開けた。
林知恵はうなずいて車に乗り込んだ。しばらくすると、車窓の外の景色が見慣れないものになっていることに気づいた。
「どこに行くの?」
「空港だ」
「え?」
……
空港。
林知恵は最初は訳が分からなかったが、メイクを変えた直方来美が老人を抱きしめて笑いながら戯れているのを見て、何が起きているのか理解した。
「彼女、逃げるつもり?」
「ああ」
宮本深は林知恵を引っ張ってVIPエリアに座らせた。
林知恵は直方来美の以前の態度を思い出した。宮本深さえも恐れなかったのは、最初から逃げる計画があったからだ。
さっき言っていたことは純粋に彼女を刺激するためだったのだ。
水をかけたのは少なすぎたようだ。
文句を言うのはさておき、直方来美を逃がすわけにはいかない。
林知恵が立ち上がろうとしたとき、宮本深が手を伸ばして彼女を引き止めた。
「あなたが動く必要はない。ショーを見せるために連れてきたんだ」
彼は腕時計を見て、表情は平然としていた。