病院、霊安室。
直方来美の兄が入るなり、ずるそうな目つきで首をすくめた。
先導する医師はマスクをつけ、まるで風を連れて歩くように、冷たい雰囲気を漂わせていた。
霊安室は陰気が強いと言われ、長く滞在すると死の気が身に染みつくという。
直方家の兄は鼻をつまみ、声を上げた。「今日じゃないと駄目なのか?」
医師はかすれた声で答えた。「もう死亡証明書も出したんだ、ここに置いておく理由はないだろう?早く葬式の準備をしろ」
「善行をしたいなら臓器提供もできるが、恨みの強い人の臓器を移植された患者は、自分のものではない記憶を持つことがあるとよく聞くがな」
直方家の兄の表情が凍りついた。
「何を言ってるんだ?お前は医者だろう」
前を行く人物は白衣をひるがえし、振り返りもせずに冷たく笑った。「ここに何度か来れば、すべてわかるさ。科学で説明できないことを迷信と呼ぶのは、人を怖がらせないためだけだ」
「黙れ!」
直方家の兄は服をきつく引き寄せた。
医師は笑いながら言った。「怖がることはない、後ろめたいことをしていなければな。前の角を曲がれば着くぞ」
そう言うと、医師は角を曲がった。
しかし直方家の兄が曲がったとき、廊下には誰もいなかった。
ただ突き当たりに「霊安室」という三文字が書かれているだけだった。
彼は息を飲み、叫んだ。「何をしてるんだ?幽霊ごっこか!苦情を入れるぞ」
そう言いながら、彼は二歩前に進んだ。
突然、前方に白衣の人影が現れた。
「おい!気でも狂ったのか!」
彼は罵りながら前に進み、白衣をつかんだ。
その時、背後から男性医師の声が聞こえた。
「なんでそんなに早く歩くんだ?もう私の前に行ってるじゃないか」
前に?
直方家の兄はすぐに何かを悟り、目の前の人物を見つめて震え始めた。
彼が手を離そうとした瞬間、青白い手が彼をつかみ、女性の悲痛な声が聞こえた。
「お兄ちゃん、私を迎えに来てくれたって聞いたわ」
「あっ!」
直方家の兄は悲鳴を上げ、逃げようとしたが、足が何かにつかまれたように感じ、地面に倒れた。
女性がゆっくりと近づいてきた。
「お兄ちゃん、お金は足りてる?」
「お兄ちゃん、私はこんなに優しかったのに、どうしてこんなことをしたの?」
「なぜ私を殺したの!」
女性の声が急に鋭くなった。