第501章 退くことで進む

林知恵は同僚たちと一緒にエレベーターホールまで歩いていくと、二台のエレベーターが同時に到着した。

しかし、出てきた人物は異なっていた。

宮本深と宮本当主だった。

林知恵は一瞬驚いた。宮本当主がここに来るとは思ってもみなかった。

彼女は無意識に宮本深を見た。

宮本深の黒い瞳はいつものように冷たく、表情からは何も読み取れなかった。

どうやら彼は当主が来ることを事前に知っていたようだ。

朝、彼女にあんなことを言ったのも納得がいく。

雪村真理が前に出て歓迎した。

「当主様、三男様、ようこそいらっしゃいました。すべての準備は整っております。どうぞこちらへ」

宮本深はまぶたを少し持ち上げ、視線を林知恵と軽く合わせた。

そして再び視線をそらした。

一瞬の視線の交差だったが、林知恵は彼の目の奥にある微かな変化を感じ取ることができた。