林知恵は同僚たちと一緒にエレベーターホールまで歩いていくと、二台のエレベーターが同時に到着した。
しかし、出てきた人物は異なっていた。
宮本深と宮本当主だった。
林知恵は一瞬驚いた。宮本当主がここに来るとは思ってもみなかった。
彼女は無意識に宮本深を見た。
宮本深の黒い瞳はいつものように冷たく、表情からは何も読み取れなかった。
どうやら彼は当主が来ることを事前に知っていたようだ。
朝、彼女にあんなことを言ったのも納得がいく。
雪村真理が前に出て歓迎した。
「当主様、三男様、ようこそいらっしゃいました。すべての準備は整っております。どうぞこちらへ」
宮本深はまぶたを少し持ち上げ、視線を林知恵と軽く合わせた。
そして再び視線をそらした。
一瞬の視線の交差だったが、林知恵は彼の目の奥にある微かな変化を感じ取ることができた。
二人の小さな動きは当主の目に入っていた。
彼は目を冷たくし、足早に会議室へ向かった。
全員が着席した後、会議が始まった。
雪村真理が立ち上がり、「始めましょう」と言った。
順番に従って、同僚たちが一人ずつ前に出て自分の作品を展示した。
しかし、宮本財団から来た人々は無表情で、何の反応も示さず、明らかに満足していなかった。
最後に残ったのは林知恵と草刈栞だけだった。
雪村真理は少し息を吸い込んで言った。「二人のうち、誰が先に行きますか?」
林知恵がファイルを開き、話そうとした時、向かいの草刈栞が手を挙げた。
「私が先に行きます」
草刈栞は自信満々にスクリーンの前に歩み出た。
話し始める前に、彼女は林知恵を一瞥し、笑いながら言った。「今日私が持ってきたデザインは...龍の指輪です」
「古来より龍は我が国のシンボルであり...」
スクリーンが一瞬光り、彼女の手書きのスケッチと完成予想図が表示された。
威厳のある龍の頭と尾が繋がり、龍の背骨がはっきりと浮かび上がり、小さなダイヤモンドが散りばめられていた。
龍の額の中央にはブルーサファイアがはめ込まれ、その演出により、測り知れない暗い光を放っているようだった。
しかし、これは...林知恵のデザイン画だった。
額の宝石を変えた以外は、草刈栞は龍のひげの曲がり具合さえも一筆も変えていなかった。