第507章 蘭の香り

宮本深の声を聞いた時、林知恵は少し驚いた。

振り返ると、男の墨色の瞳と目が合った。相変わらず冷淡だが、何か言い表せない感情が隠されていた。

視線が流れる中、彼の目の奥には薄く甘美な色合いが漂っていた。

男はゆっくりと歩いて入ってきた。

元々ソファに座っていた数人の婦人たちが次々と立ち上がった。

「三男様」

「どうぞ、お構いなく」宮本深は淡々と言ったが、視線は林知恵から離れなかった。

彼はわざとらしく言った。「どうして彼氏の話になったんだ?聞いていると何だか見覚えがあるような」

宮本深が見覚えがあると言うのを聞いて、数人の奥様たちは顔を見合わせ、その男が誰なのか推測しているようだった。

林知恵だけが耳まで赤くなり、穴があったら入りたい気分だった。

奥様の一人が言った。「林さんにご紹介しようと思っていたのですが、彼女に彼氏がいると知って、ついつい誰なのか聞いてしまったんです」