この瞬間。
林知恵は田中慎治から無事を知らせるメッセージを受け取り、すぐに宮本石彦の車の後部座席で体を起こした。
先ほど会社を出発した時、田中慎治と山田照夫は誰かに尾行されていることに気づいた。
そのため高架橋の下を通過する際、彼女は夜の闇に紛れて素早く宮本石彦の車に乗り込んだ。
何とか危機を脱することができた。
彼女が携帯を置くと、画面に人気検索ワードが表示された。
白川若菜と宮本曜介が川辺を夜に散歩。
白川若菜が宮本曜介のトラウマ克服を手伝い、一緒に捜索結果を待っているという内容だった。
二人の親密な様子から見ると、捜索隊は二人のプレイの一部になっているようだった。
でも白川若菜は宮本深に対して……
そのとき、宮本石彦の落ち着いた声が響いた。
「風が強くなると、それに乗じようとする者が出てくるものだ」
言外に白川家が風見鶏のように立ち回っているという意味だ。
林知恵は携帯を握りしめた。「はい」
宮本石彦は彼女を見て、目に安堵の色が浮かんだ。
「知恵、君は変わったね。以前より冷静になった」
「良い先生がいたから。逃げて命を守るように教えてくれた」
そう言いながら。
林知恵は宮本深のことを思い、胸が苦しくなった。
宮本石彦は慰めるように言った。「きっと大丈夫だよ」
林知恵は黙ったまま、胸には常に刃物がぶら下がっているような不安があった。
今夜はもう帰れそうにないので、彼女は宮本石彦と一緒に別荘に戻った。
思いがけず、招かれざる客が待っていた。
渡辺青葉だ。
林知恵はすぐに身を低くした。
宮本石彦は脇に置いてあったコートを彼女の上にかけ、小声で言った。「ガレージから入って。彼女が何の用で来たのか見てみる」
「わかりました」
林知恵はうなずいた。
彼女は今、生きた的のようなもので、姿を現すべきではなかった。
特に冷酷無情な渡辺青葉の前では。
林知恵は宮本石彦がうまく対処してくれると信じていた。
門を入ると、宮本石彦が先に車から降りた。
渡辺青葉は、かつて宮本石彦と付き合っていた頃に最も好んで着ていた赤いカシミアのコートを着ていた。
彼女はいつも颯爽として強い女性で、赤い服を身につけると。
これだけの年月が経っても、魅力的な女性だった。
ただ、目には愛情ではなく、利益だけが宿っていた。