壁の向こうにイケメンがいる(1)

 「最高の愛とは、あなたのために残りの人生が華やかになること」——葉非夜『隣の壁に神様あり』

 ……

 「有栖川涼(ありすがわ りょう)と再会したのは、それから2年後のことだった。あの約束の日にどうして来なかったのか尋ねようとした矢先、彼は私を見つめ、隣にいる人に先に口を開いた。礼儀正しくも冷静な口調で、『彼女は誰?』というたった三つの言葉が、私の目に涙を浮かべさせそうになった。私がずっと待っていた人は、もう私のことを覚えていなかったのだ」

 常盤燿子(ときわ ようこ)がこの日記を書いたとき、自分の人生で涼とは二度と関わることはないだろうと思っていた。しかし、それからさらに2年後、彼女は思いがけず彼の家に住むことになった。

 ……

 燿子が涼の家に住み始めて5日目にして、ようやく彼と正式に顔を合わせることになった。

 それは深夜のことだった。熟睡していた燿子は、うっすらと隣に誰かが横たわる気配を感じた。彼女は全身を大きく震わせ、瞬時に夢から覚めた。

 隣に横たわったのは男性だった。

 室内の夜灯は薄暗く、彼の顔ははっきりと見えなかったが、それが有栖川涼だとすぐにわかった。

 2年ぶりの突然の再会に、燿子は少し緊張し、また少し戸惑った。彼女は落ち着いたふりをして、しばらく心を落ち着かせてから、平静な声で言った。「帰ってきたの?」

 涼は燿子の言葉に応じず、彼女を見ることさえせず、ただ素早く服を脱ぎ、一瞬で彼女を押し倒した。

 男の体温は熱く、燿子の心に何とも言えない不安を抱かせた。彼との再会の場面は想像していたが、こんな状況になるとは思っていなかった。彼女は本能的に抵抗し、逃れようとした。

 涼はまるで面白い冗談を聞いたかのように、「ふん」と軽く笑い、そして簡単に彼女を押さえつけた。彼は手を伸ばして彼女の顎をつかみ、彼女の顔を無理やり上げさせ、そして彼女の耳元に近づき、意図的に言葉を強調しながら、一言一言、最も軽蔑的な言葉を吐いた。「演技はやめろ。お前は必死になって俺の家に住み込み、何度も爺さんに俺がお前を放置していると訴えた。それは俺に戻ってきてお前を抱かせるためじゃないのか?」

 燿子は彼の嘲笑的な言葉に一瞬固まった。彼女がまだ反応する間もなく、彼は彼女の前の布団を引きはがし、乱暴に彼女のパジャマを引き裂き、優しさのかけらもなく彼女の肌に触れた……

 ……

 翌朝、燿子が目を覚ますと、隣には誰もおらず、涼はすでに姿を消していた。

 もし体の痛みと床に散らばった引き裂かれたパジャマがなければ、燿子は昨夜のことを自分が作り上げた悪夢だと思ったかもしれない。

 燿子は起き上がり、浴室に入り、身支度を整え、きれいな服に着替えて、朝食を食べに階下へ向かった。

 廊下を通り過ぎるとき、燿子はいつものように手すりの下の1階のリビングを見やった。涼は窓の前に立ち、彼女に背を向けて電話をしていた。

 燿子は無意識に足を止め、頭の中には瞬時に昨夜の出来事が浮かんだ。

 彼女がぼんやりしている間に、涼の電話は終わった。彼の近くに立っていた執事が丁重に声をかけた。「有栖川さん、車はすでに準備ができております」

 「ああ。」涼のあっさりとした返事に、燿子は我に返った。彼女は涼が執事から渡されたスーツの上着を受け取り、玄関へ向かうのを見た。

 彼は靴を履き替え、ちょうど出かけようとしたとき、何かを思い出したかのように立ち止まった。彼は執事を見ることなく、淡々とした口調で、感情を込めずに言った。「後で避妊薬を買ってきてくれ。上の彼女が起きたら、飲ませるように」