部屋には常盤燿子一人しかいなかった。彼女は信じられないながらも、彼が自分に挨拶していることを知っていた。心の中では飛び上がるほど興奮していたのに、あえて落ち着いた様子で顔を上げ、少し無邪気で戸惑ったような表情で彼に向かって「ん?」と声を出した。
彼は彼女を見つめて黙っていた。漆黒の瞳が彼女の心を揺さぶり、ドキドキと激しく鼓動させた。
常盤燿子は思わずフォークを握りしめ、心の動揺を必死に抑えながら、できるだけ冷静に再び口を開いた。「何かご用ですか?」
有栖川涼は彼女を見つめ続け、何も言わなかった。常盤燿子が彼は自分に返事をしないだろうと思った瞬間、彼は突然低く笑い出した。「別に。さっきからずっと僕を盗み見てたから、ちょっと相手してあげただけ」
そうか、さっき彼をこっそり見ていたのがバレていたのか……常盤燿子の装った冷静さが徐々に保てなくなり、彼女の耳元が薄く赤くなっていった。