第60章 できるだけ遠くに消えろ(10)

常盤燿子はもちろん傍観するつもりはなく、考えることもなく上杉琴乃を助けるために飛びかかった。

その日の常盤燿子は、腰まである長い髪を梳かしておらず、菅野千恵が無造作に反撃した時、髪をつかまれてしまった。

彼女は痛みで息を呑み、思わず悲鳴を上げた。それを聞いた近くで酒を飲んでいた男子たちは、彼女たちに注意を向けていなかったが、すぐにグラスを置き、急いで駆けつけて三人の女子を引き離した。

菅野千恵は兄に守られながら状況を訴え、上杉琴乃は柊木誠一に抱きかかえられて事の顛末を説明していた。ただ常盤燿子だけが親戚も頼る人もなく、黙って一人で立っているしかなかった。

菅野千恵と上杉琴乃がほぼ同時に不満を述べ終えると、菅野千恵の兄と柊木誠一はほとんど躊躇なく同時に口を開いた。