第66章 一夢八年、全ては彼の顔(6)

その夜、有栖川涼は「しばらくいる」と言っただけで、丸々2時間も滞在した。

有栖川涼が常盤燿子を家まで送り届けた時には、すでに深夜12時を回っていた。

その夜、有栖川涼が常盤燿子を家まで送ったのは、前回の自転車ではなく、ガレージから出した車だった。

当時の常盤燿子は車についてあまり詳しくなかったが、その車がとてもかっこよく見えただけだった。何年も後になって、彼女はその車がアウディで、数千万円もする高級モデルだったことを知った。

常盤燿子の家の前に到着すると、彼女はドアを開け、有栖川涼に「さようなら」と言って車を降り、ドアを閉めた。建物に向かって二、三歩歩いたところで、後ろから車の窓が下がり、有栖川涼の声が聞こえてきた。「かまちょ姫?」

その夜、彼は何度も彼女を「かまちょ姫」と呼んだが、毎回聞くたびに彼女は顔を赤らめた。彼女は彼に背を向けたまま足を止め、恥ずかしくて振り返ることができなかった。