第109章 目が本当に人を惹きつける(9)

それは有栖川涼の車だった。

常盤燿子は本能的に指先を震わせ、柊木誠一の手を離すことを忘れていた。

幸い、柊木誠一は入ってきた車に気を取られ、彼女のそのような微妙な反応に気づかなかった。「涼さんが来たの?」

常盤燿子はようやく我に返り、急いで手を引っ込めた。そして有栖川涼が車のドアを開けて降りるのを見た。

彼が鍵で車をロックしながら、不思議そうに尋ねた。「なぜ中に入らないんだ?玄関で何をしているんだ?」

「今着いたところだ」陸田透真が答えた。

有栖川涼はそれ以上何も言わず、玄関に着くと、身をかがめて靴箱からスリッパを取り出している常盤燿子を見て、少し驚いた様子で、一瞬躊躇してから不思議そうに尋ねた。「管理人はどこだ?」

常盤燿子は有栖川涼の前にスリッパを置く動作を少し止め、有栖川涼を見上げることなく、小さな声で答えた。「用事があって、私に電話をくれて、休みを取りました」