第155章 とても大切な人(5)

「いらない、ありがとう」有栖川涼は簡潔に四文字で返事をし、視線をパソコンから離さず、指先でキーボードを打つ動作も全く影響を受けなかった。

陸田透真は肩をすくめ、もう何も言わずに冷蔵庫の前に直接歩いていき、ミネラルウォーターを一本取り出し、キャップを開けながら飲みつつ、リビングに戻ってきた。

彼はソファの横に立ち、仕事をしている有栖川涼をしばらく見つめた後、ミネラルウォーターのボトルを置いて、階段を上がった。

陸田透真がシャワーを浴び終えて下りてきたとき、リビングには有栖川涼の運転手である大和くんがいた。

有栖川涼のパソコンは画面が点いたまま、テーブルの上に置かれており、彼は何枚もの書類を手に持ち、ページをめくりながら、時々ペンで線を引いていた。

大和くんは陸田透真を見ると、丁寧に頭を下げたが、忙しそうな有栖川涼の邪魔をしないよう、声は出さなかった。