第156章 とても大切な人(6)

その言葉に、有栖川涼の表情が静かになった。しばらくして、彼はようやく口を開いた。その声は冷ややかだった。「わからない」

「でも……」有栖川涼はたった二言だけ言って、眉間を少し動かしてから、言葉を切った。

彼と手紙のやり取りをしていた人は「Aちゃん」と呼ばれていた。

Aちゃんからの手紙を見ると、どうやら彼の方からAちゃんに手紙を送り始めたようだった。

彼の記憶では、何も抜け落ちているようには思えなかった。しかし、当時の自分がなぜこのAちゃんという人に手紙を書き始めたのか、ずっと理解できなかった。

家庭の事情で、彼は他人に自分の心の内を打ち明けることを好まなかった。また、そのような感傷的な告白は口にするのが難しいと感じていた。おそらく当時の自分は、Sくんという仮名を使って、単純に全く関係のない文通相手を見つけて、心の内を吐き出したかっただけなのだろう?