第160章 とても大切な人(10)

彼はまず主寝室に行ったが、そこには彼が探している人はおらず、空っぽだった。彼は部屋のドアを閉め、自分以外誰も入らない書斎のドアを手早く開けた。

同じく空だった。

そして彼はイライラしながらスーツの上着を脱ぎ、二番目の寝室に向かって適当に投げ捨て、ネクタイを緩めながら廊下の奥へと歩いていった。

サンルームに近づくと、明るいガラス越しに、花の棚の前にしゃがみ込み、はさみを持って花や葉を剪定している常盤燿子の姿が見えた。

有栖川涼の足取りは一瞬緩んだが、次の瞬間には急いで大股で二歩前進し、勢いよくサンルームのドアを開けた。

突然のドアの開閉に、花を剪定していた常盤燿子は驚き、手が震えて、美しく咲き誇っていたバラの花を一刀両断してしまった。

有栖川涼は長い間帰ってこなかったので、常盤燿子は管理人が何か用事があって慌ただしく彼女を探しに来たのだと思った。床に散らばった花びらを見て眉をひそめながら、ドアの方を振り向きながら、少し責めるような口調で言った。「何の用事で、こんなに…」