それから男性は「和泉沙羅」に対して気遣いよく車のドアを開け、彼女が車に戻って座った後も、身をかがめて運転席の窓に向かって何か言葉をかけてから、手を振り、二人はお互いに別れの挨拶を交わした。
「和泉沙羅」の車はハザードランプをつけたまま路肩に停車し、すぐには発進せず、彼女はその男性が学校の中に入るのを見届けてから、やっと車のエンジンをかけ、ゆっくりと発進して走り去った。
有栖川涼はもう「和泉沙羅」を追うのをやめた。彼は車の中に座り、先ほど早稲田大学の正門前で「和泉沙羅」とあの男性が別れを告げた場所を、まばたきひとつせずにじっと見つめていた。
菅野千恵が今夜彼に告げたことは、本当だったのだ。彼女をあれほど信じ、守ってきたのに。
つまり、黄金宮殿での彼の行動は、すべて笑い話だったということだ!