第273章 君は私の、穏やかな気性の理由(3)

いいえ、もっと前のことだったようだ。彼女がパリに行く前、さらには不良王に誘拐された時よりも前のことだったかもしれない……

「何を考えているの?」メインテーブルに座り、優雅に食事をしていた有栖川涼は、常盤燿子が突然箸を噛みながらしばらく動かなくなったのを見て、彼女の方を向いて声をかけた。

常盤燿子は急いで頭の中の空想を切り上げ、声に反応して有栖川涼を見た。彼女は箸を噛みながら彼に向かって頭を振り、口を開いて視線を戻し料理を取ろうとしたとき、彼が唇を動かし、何か言おうとしているのを見た。

常盤燿子は条件反射的に有栖川涼がまた「ベイビー」と言って彼女をからかうつもりだと思い、目を料理の上でぐるぐると回し、箸を持ち上げて有栖川涼が食卓に着いてから一度も手をつけていなかったウズラの卵を一つつまみ、彼が開きかけた口に容赦なく押し込んだ。