第272章 君は私の、穏やかな気性の理由(2)

スリッパを投げた後、常盤燿子は自分が咄嗟にしたことに気づき、全身の毛が逆立つほど怖くなった。

彼女の緊張とは対照的に、有栖川涼は向かってくるスリッパなど気にも留めず、悠然とした姿勢で片手をポケットに入れながら彼女に向かって歩き、スリッパが目の前に飛んできた時、頭を少し傾けただけで、まばたきひとつせずに手を上げ、彼女が投げたスリッパを軽々と正確に受け止めた。

常盤燿子は自分の目を疑うかのように、冷静沈着な有栖川涼を見つめ、瞬きをし、彼の手に持たれたスリッパを見て再び瞬きをした。そして彼がすでに自分の目の前に立っていることに気づいた。

彼女はさっきスリッパで彼を攻撃したのだ...彼は自分に仕返しをしに来たのだろうか?

常盤燿子はすぐに後ろに一歩飛び、ダイニングルームへと駆け込んだ。