第377章 草むらの指輪（7）

「私はときどき忙しくて時間がないことがあるじゃない？」

「そうですね。では奥様、後で手順を書いてください。私が覚えて作りますから。奥様に時間がないときは、私が有栖川さんのために作りますし、奥様に時間があるときは奥様が作ればいいです」管理人は笑顔で冗談めかして言った。「有栖川さんはきっと奥様の作ったものの方が好きでしょうね」

常盤燿子は唇を引き締めて微笑んだが、何も言わず、すぐに目を伏せて瞳の暗さを隠し、そして振り返って食堂を出た。

……

昨日フォーシーズンホテルで深く眠っていた有栖川涼は、ホテルスイートの固定電話の呼び出し音で目を覚ました。

実際にはそれほど長く眠ったわけではなかったが、彼はまるで一世紀も眠ったかのように感じ、目を開けた時、今がいつなのかわからないような錯覚を覚えた。