オフィスで音楽が流れていて、とても大きな音でうるさかったが、陸田透真は歌声を通して、断続的な啜り泣きの声がはっきりと聞こえてきた。
陸田透真は自分がどれだけの間、硬直して立っていたのか分からなかった。机に伏せていた有栖川涼が体を動かすまで。そのとき彼はハッと我に返り、素早く横に一歩移動して壁の陰に隠れた。
オフィスでは歌が流れ続けていた。
陸田透真はしばらく立ち尽くした後、ようやく気づいた。どうやら有栖川涼は同じ曲をずっとリピートしているようだった。そしてそのメロディーはどこか聞き覚えがあった。彼はどこかで聞いたことがあるような気がした。
「私の愛は一日一日とあなたの世界で座礁していく、愛がいかに危険かを私は理解した」という歌詞を聞いたとき、彼はようやく思い出した。これは数日前、誰かと冗談を言い合っていたとき、じゃんけんに負けて歌った曲ではないか?