「姉さん!お姉さん!」
星野心は急いで橋本楓を押しのけ、ドレスの裾を持ち上げて階段を駆け上がった。
その光景を見た人々は、一瞬驚きの表情を浮かべた!
これまで星野市長の娘は星野心だけと聞いていたのに、彼女が今、あの黒衣の女性を「お姉さん」と呼んだのだ。しかも、体裁も構わずに叫びながら駆けていくなんて?
一体何が起きているのだろう?
皆が驚いて顔を上げ、星野心が走っていく方向を見ると、二階の廊下に細い黒い影がかすかに見えるだけだった。
橋本楓もその様子を見て眉をひそめ、考えた末、彼女の後を追って階段を上がった。大広間は一瞬にして騒がしくなり、下からはひそひそ話す声が聞こえ、皆が驚いた様子で二階を見つめていた。
「止まりなさい!」
星野夏子が身を乗り出した瞬間、高橋文子の厳しい声がすぐに響いた。夏子は無視しようとしたが、彼女の後ろにいた二人の黒服の男性がすぐに前に出て、一瞬で夏子の行く手を阻んだ。
星野夏子は足を止めざるを得なかった。
「あなたは欲しいものを手に入れたはず。今度は私から何を得たいの?高橋社長?」
冷たい口調には温かみが全くなかった。
「その態度は何なの?」
高橋文子は不機嫌そうに眉をひそめた。
「こちらが噂の星野家のお嬢様、星野夏子さんですね?」
突然、男性の意地の悪い笑い声が聞こえた。夏子は冷たい視線で男を一瞥した。その優美な顔は見覚えがあった。間違いなければ、斉藤凱の息子、斉藤礼だろう!
「夏子、早く斉藤坊ちゃんに挨拶しなさい」
星野夏子が反応しないのを見て、高橋文子は冷たく命じた。
やっと斉藤礼を招待できたのだから、高橋文子はこの機会を台無しにしたくなかった。もし斉藤礼が夏子に興味を持てば、それは素晴らしいことだ。月影の危機を解決できるだけでなく、夏子も良い家に嫁ぎ、良い行き先を得ることになる。
斉藤礼の深い目は常に星野夏子に注がれていた。彼女の強情で冷たい様子が彼の目に映り、彼の目の奥に突然光が浮かんだ。それは獲物を見つけた野獣のような輝きだった。
星野家は常に彼らの斉藤凱に投資を検討してほしいと思っていた。先日も星野心を出してきて、彼が彼女に興味があると思わせた。市長の娘なら、遊ぶくらいはいいだろう?