第107章 署名のない書類(その一)

この言葉を聞いて、星野夏子の美しい顔に笑みが広がった。しばらく深田勇をじっと見つめた後、ゆっくりと立ち上がり、「キッチンを見てくるわ」と言った。

キッチンの入り口に着くと、誘惑的な香りが漂ってきた。顔を上げると、深田文奈のすらりとした後ろ姿が目に入った。

すでに50歳を過ぎていたが、深田文奈は自分をよく手入れしており、今見ても色気があり、若く見える。星野夏子に似た容姿で、母娘が並ぶと姉妹のように見えた。

「帰ってきたの?」

夏子が後ろに立っていることに気づき、深田文奈は突然振り向いて彼女を見つめ、冷たい瞳に少しだけ光が宿った。

「うん」

星野夏子は小さく返事をし、ゆっくりと手を洗いに近づいた。

「この数日は学校も休みだし、お祖父さんも暇になったから、時間があれば実家に顔を出して、お祖父さんと過ごしなさい。この頃ずっとあなたのことを心配していたわ」