第195章 事件(三)

「お嬢さん……あなたですか!」

コンクリートの小道を通り抜けると、驚いた声が聞こえてきた。星野夏子が顔を上げると、孤児院の年老いた大野院長と木村先生だった。

「あら、星野さんじゃありませんか!」

年老いた院長の顔に笑みが浮かび、彼女に手を振った。

ここの院長は星野夏子の姓を知っており、彼女が長期間にわたって匿名で支援してくれていることに感謝していた。何度も彼女の名前を院内に残そうとしたが、星野夏子はそれを断り続けていた。

彼女がここに来るたびに、物を届け、外から子どもたちを見て、そしてすぐに立ち去るのだった。

「新年おめでとうございます。用事の途中で寄らせていただきました」

星野夏子の美しく清楚な顔に穏やかな表情が浮かび、敬意を込めて挨拶し、手に持っていたものを木村先生に渡した。「子どもたちへのプレゼントです。みんな元気にしていますか?」

木村先生は一瞬驚いた様子で、しばらくしてから微笑みながら受け取り、声に温かみを込めて言った。「ありがとうございます、星野さん!子どもたちは皆元気ですよ、ご安心ください。ただ……」

そこまで言って、木村先生は急に言葉を止め、隣にいる大野院長の方を躊躇いがちに振り向いた。眉間には言い表せない悩みの色が浮かんでいた。

大野院長もまた沈んだ様子で、老いた目は暗く、ため息をついて言った。「星野さん、子どもたちに会いに行きませんか。ここは数日後に取り壊されることになって……」

「取り壊される?」

大野院長の言葉に、星野夏子は眉をひそめ、目を凝らして尋ねた。「どういうことですか?」

「ここはもともと古い住宅地で、政府が早くから買い上げて再開発する予定だったんです。数年後に許可が下りると思っていたので、私も最近この件で奔走し、ここを守れるよう願っていました。しかし、私が動き回る間もなく、許可が早めに下りてしまい、ここはすでに買収されてしまったんです。来月には引っ越さなければならなくて……」

大野院長は少し沈んだ様子で話し始めた。彼女は目の前の見慣れた光景を見上げ、目には多くの名残惜しさが浮かんでいた——

何十年もの歳月が経ったのに!

結局、守ることができなかったなんて!

「では、子どもたちはどうなるのですか?」

星野夏子の心は沈み、澄んだ瞳に心配と気遣いの色が隠しきれずに浮かんだ。