北川雲上錦

名門の盛大なパーティーの席で、私、星野夏子の婚約者はあろうことか実の妹にひざまずき、プロポーズをした。一瞬にして相続権を奪われ、星野家からは政略結婚の駒として、まるで生贄のように差し出される運命に。

すべてを失い、心の底まで凍てつくような絶望の中、これまでの全てを葬り去ることを決意した夏子は、最後の望みをかけてある男のもとへ向かった。彼は、瑞穂市で並外れた権力を握る『清川グループ』の若き総帥、藤崎輝。誰もが近寄りがたいオーラを放つ、クールな男。

「藤崎さん、わ、私と、結婚してください」

書類の山からふと顔を上げた輝が、夏子を捉えると、静かに立ち上がった。

「行こう」
「……どちらへ？」
「急げ。役所がもうすぐ閉まる」

こうして始まった、偽りの結婚生活。けれど、ある夜――
「そろそろ義務を果たしましょうか、奥さんとして」
「そ、そんな興味がないと聞いていたのよ！？」
「さあな、試してみましょうか」
そして、甘く乱れた一夜が明け――
「藤崎輝！この大嘘つきっ……！」

契約婚から始まる逆襲

彼は彼女の冷たい小さな手を握りしめ、背筋の伸びた体が隙間なく彼女に覆いかぶさった。


「私が薄情だと言われても仕方ない。心の中に詰め込めるものはそう多くない。感情も結婚も、一度で十分だ。いつもシンプルでありたいと思ってきた」


彼は何かを思い出したかのように、静かに目を伏せ、低い声音には少し物悲しさが漂っていた。彼女はそれを聞きながら、胸の奥に抑えきれない痛みを感じ、急いで彼の大きな手から逃れ、彼の顔を両手で包み込むと、柔らかなバラ色の唇が彼の無表情な唇に軽く触れた。


「ごめんなさい、私は...わざとじゃなかったの...あなたが私にとても優しいから、いつか...と思うと不安で、あなたをしっかり掴んで離さないようにしたくて、他の女性の良さを知らないでいてほしくて...私たちがこのまま一生を過ごせることを願ってるの...」


彼は少し困ったように低く叱ったが、彼女のその言葉に心が喜び、胸の内に淡い甘さが広がり、彼女の突然の情熱を拒むことなく、このキスを深めた。


彼女の気持ちは日に日に強くなり、彼女自身も自分がなぜこれほど彼に夢中になったのか分からなかった。彼からより多くの愛情と関心を得たいと思い、彼のすべての感情を絞り出し、彼の目に映るのは彼女だけであってほしいと願った。


これはすべて、彼のせいだった...


この時、星野夏子は気づかなかったが、彼女を腕の中に閉じ込めている男もまた、同じ気持ちを抱いていた。


藤崎若旦那は常に策略に長けていた。彼は藤崎奥さんの心を掴み、彼女を幸せにできると自信を持っていた。それは単なる思いつきではなかった！


橋本楓も斉藤礼も、彼らなど地獄に落ちればいい。彼女、星野夏子は生涯、彼、藤崎輝から離れることはないだろう...


しばらく愛を交わした後、彼はついに我慢できなくなった。夏子さんから三ヶ月後には時々そういうことができると聞いていたが、安全のために、ちょうど眠りについたばかりの草場医師に電話をかけて、それが可能かどうか確認せずにはいられなかった。夏子さんは恥ずかしさで顔を真っ赤にした。


電話を切った後、彼女の小さな顔は赤らんでいた。拳を握りしめて彼の胸を叩き、恥ずかしそうに言った。「どうしてそんなことを人に聞けるの？しかもこんな時に！恥知らずね！」


第557章 因縁の相手と狭き道（三）

第557章因縁の相手と狭き道（三）