翌日、星野夏子が身支度を整えて階下に降りると、男性と渡辺薫がソファに座ってお茶を飲んでいた。渡辺薫も清潔な服に着替えていて、彼と藤崎輝は体格がほぼ同じなので、藤崎輝の服も彼にはよく似合っていた。
「須藤旭の方は大丈夫だったのか?どうして酔っぱらったのは俺になってるんだ?少しも止めてくれなかったじゃないか。」
渡辺薫はお茶を口に運びながら、のんびりと新聞を読んでいる藤崎輝を見上げた。
「本当に飲みたかったら、俺が止められるわけないだろう?」
低い声に皮肉めいた響きを含ませながら、藤崎輝は顔も上げずに彼に答えた。
渡辺薫は肩をすくめた。「今朝、須藤おじいさんたちに電話したところだ。須藤おじいさんのところに、時間を見つけて行ってやってくれ。須藤さんも気にかけているようだ。そういえば、先日真に会った時、彼らがまだ誰かを捜しているという話を聞いたが、凌子の父親のことだろう?」
渡辺薫は言いながら動きを止め、藤崎輝を見つめた。
「ああ、凌子はずっとその人を見つけたいと思っているが、手元の手がかりが少なくて、こういう方法でしか手がかりを得られないんだ。」
藤崎輝も隠さずに話したが、この話題になると心に微かな苦さを感じた。
渡辺薫はうなずいた。「これが凌子が長年叶えられなかった願いだということは知っている。かつての天も必死に答えを探していたよな。今はどうなんだ?何か手がかりはあるのか?DNAデータベースで照合して人を見つけることはできないのか?」
「できるなら、今こんなに手詰まりにはなっていない。お前はこちらの界隈では人脈が広いだろう。約30年前頃、この業界に藤田さんという人物がいなかったか調べてくれないか。その人物はある程度の地位や身分を持っていたはずだ。おそらくこの地域だけに限らず活動していたと思う。黒田新蘭というトップマネージャーと親交があったようだ。何か手がかりがあったら教えてくれ。」
藤崎輝はためらいながらも、隣の渡辺薫に言った。
「藤田さん?藤田さん?」
渡辺薫は小声で繰り返した。何か聞こうとしたが、藤崎輝の深く考え込んだ表情を見て言葉を飲み込んだ。「わかった、できる限りやってみる。でも30年前のことだと、あまりにも昔すぎる。俺たちもその頃はまだ小さかったから、見つけられるかどうかは保証できないよ。」