「星野監督、これは総務部が修正した案ですが、ご覧になりますか...」
秘書は書類を見ながら作業していた星野夏子に一枚の書類を渡した。
星野夏子はそれを聞いて手を止め、ふと顔を上げ、書類を受け取って一通り目を通してから秘書を見上げた。「これは藤崎取締役に直接見てもらう必要があります。あなたはまず下がっていいわ。藤崎取締役が戻ったら、私から伝えておくから」
秘書はうなずいた。「そうそう、星野監督、営業部の鈴木マネージャーが外で待っています。何か急ぎの用事があるようです」
「通してください」
「かしこまりました」
秘書は返事をして事務所を出て行き、しばらくすると営業部の鈴木マネージャーが入ってきた。彼はきびきびとした印象の中年男性だった。
「星野監督!」
「何かあったの?今日は大野家に行って新製品の代理店契約の交渉をする予定じゃなかった?」
星野夏子は目の前の男性を不思議そうに見つめた。
「彼らは12パーセントを要求してきました。私たちの予想より1.5ポイント高いので、藤崎取締役のご意向を伺いに戻ってきました」
「瑞豊株式会社の佐藤社長にアポイントを取りなさい。彼らがやらなければ、他にもやる人はいるわ。ボトムラインを超えるなら交渉する必要もないわ。今は私たちが大野家に代理店になってもらいたいわけじゃないのだから」
星野夏子は冷静に言った。
鈴木マネージャーはうなずいた。この星野監督がこういった事を話す時はいつもこんな調子だということを知っていた。しかし、多くの人はそのために彼女と話す時は要点だけを述べる習慣がついていた。この性格は、彼らの藤崎取締役に似ているところがあり、さすが夫婦だと思った。
鈴木マネージャーは指示を受けるとすぐに退出し、星野夏子は引き続き書類に目を通していた。それらは南浦プロジェクトの市場調査と工事の進捗状況に関するものだった。
午後まで忙しく働いていたが、藤崎輝は昼食に戻ってこなかった。昼には接待があるという電話があり、星野夏子は彼にお酒を控えめにするよう言って電話を切った。
明後日は中秋節で、ちょうど休日と重なり、明日から休暇が始まる。やるべきことがたくさんあるので、星野夏子も暇ではなく、朝からできる限り自分の判断で処理できる書類は全て処理し、残りは彼に任せることにした。