第120章 手放さざるを得ない

「自分たちで車で行こう」雲井陽介は彼女に静かに言った。

安藤若菜は首を振り、ゆっくりと自分の手を彼の手から引き抜いた。「もう病院に付き添いたくないわ。あなた一人で行って。陽介、私の心は乱れているの。あなたは病院でちゃんと傷を治して、私を心配させないで。私の心をもっと乱さないでくれる？」

「若菜……」雲井陽介の瞳の色が暗く沈んだ。彼は一瞬も瞬きせずに彼女を見つめ、彼女の目から何かを読み取ろうとしているようだった。

安藤若菜は少し目を伏せ、彼の鋭い視線を避けながら言った。「今とても疲れているの。上がって少し休みたいわ。早く車で病院に行って。それに、あなたはもう大人なんだから、自分の健康を冗談にしないで」

言い終わると、安藤若菜は振り返って歩き始めた。

雲井陽介は彼女の後ろ姿を見つめ、表情は非常に暗かった。

彼は知っていた。おととい夜以来、彼らの関係は変わってしまったことを。彼はまた知っていた。安藤若菜はもう彼と一緒にいることを考えていないこと、彼女はきっと冷酷に彼と別れるだろうということを。

彼は取り戻したいと思ったが、彼女の態度はあまりにも冷淡で、彼に少しの希望も与えなかった。

まさか、彼らの間のこの始まったばかりの感情が、すぐに終わってしまうのだろうか？

雲井陽介の心は不安と恐れでいっぱいだった。彼は一体どうすれば、彼女に信じてもらえるのか、彼が本当に彼女のことが好きで、本当に彼女と一緒にいたいと思っていることを。

安藤若菜の姿が消えた後も、雲井陽介はまだその場に長い間立っていた。やっと名残惜しそうに車に乗って去っていった。

いいだろう、彼女が冷静になる時間が必要なら、彼は彼女に冷静になる時間を与えよう。

しかし彼に手放せと言うなら、それだけは死んでもできない！

車が去った後、安藤若菜はようやく角から出てきた。遠ざかる車を見つめながら、彼女の心は引き裂かれるように痛んだ。

彼女は雲井陽介がこの関係を手放したくないことを知っていた。実際、彼女自身もそれを手放したくなかった。

彼女が最も孤独で絶望的だった時、彼女が最も気遣いと温かさを必要としていた時、彼が彼女のそばに現れ、彼女に束の間の幸せと喜びを与えてくれた。

この幸せは本当に貴重なものだった。もし可能なら、彼女は最後の瞬間まで頑張って手放したくなかった。