さらに二歩前に進むと、突然、彼女の両腕が誰かに掴まれた。安藤若菜は心臓が跳ね上がり、考える間もなく叫び声を上げた。
「助けて!誘拐よ!」
安藤若菜の叫び声はすぐに多くの人々の視線を集め、巡回中の警察官も引き寄せた。
言うまでもなく、彼らは全員警察署に連行された。
安藤若菜は本来警察署に行きたくなかったが、その男は彼らが誘拐犯ではなく、ただボスの指示に従って家出しようとしている奥様を家に連れ戻そうとしただけだと主張した。
安藤若菜は自分が彼らの奥様ではないと言い、男は彼女がそうだと主張した。仕方なく、警察は彼女に警察署に同行して調査に協力するよう求め、彼女もついていくしかなかった。
警察署で少し座っていると、安藤若菜は藤堂辰也がドアを押して入ってくるのを見た。
男は一糸乱れぬ黒いスーツを着こなし、全身から王者の強い風格を漂わせていた。警察署長でさえ彼に話しかける時は非常に敬意を払い丁寧だった。