第190章 彼女の気持ちなど気にしない

その時、彩さんは彼女に藤堂辰也へのネクタイを買うよう勧めたが、彼女は同意しなかった。まさか彩さんが彼女の代わりにこっそり買っていたとは思わなかった。

男性は少し目を細めた。「俺のために買ったんじゃないのか?じゃあ誰のために買ったんだ?」

安藤若菜は彩さんが買ったと言おうとしたが、そうすれば確実に藤堂辰也を怒らせることになる。

彼女は仕方なく、淡々と言った。「あなたのために買ったということにしておいて」

「それは随分と気乗りしない言い方だな。言ってみろ、どの男のために買ったんだ」藤堂辰也はこの話題をそのまま流すつもりはなかった。

話が他の男性に及んでしまった以上、もし彼が架空の男性のせいで彼女を罰するなら、それは割に合わない。

安藤若菜は買い物袋を手に取り、立ち上がって階段を上ろうとした。「あなたのために買ったのよ。昨日、私と安藤吉に会わせてくれてありがとう。これでいい?」