しかし藤堂辰也は彼女と離婚しようとしない。明らかに彼女のことを少しは気にかけているのだ。
おそらく彼女を気にかけているのではなく、男というのは皆プライドがあるもので、彼は安藤若菜が自分に対して感情を持っていないのを見て、征服欲を抱いたのだろう。
どちらにせよ、彼女は確信している。藤堂辰也は彼女を愛していないし、彼女も彼を愛していない。
安藤心は呆れた表情を浮かべ、彼女を諭した。「どうしてそんなに馬鹿なの!彼と結婚して藤堂家のお嫁さんの座に就いたら、誰にも取って代わられないと思ってるの?もし彼が他の女性と一緒になって子供ができたら、あなたのその座も守れなくなるわよ!」
ここまで言って、安藤心は一旦言葉を切り、はっとして言った。「そういえば、あなたたち結婚してずいぶん経つのに、どうしてずっと妊娠しないの?彼が...妊娠させたくないのかしら?」
安藤若菜はこのような話題を議論したくなかった。彼女は笑いながら逆に尋ねた。「姉さん、今日はとても機嫌がいいみたいね。何か良いことでもあったの?」
「ないわよ」安藤心は笑って首を振った。「ただあなたに会えて嬉しいだけ。この前はあなたがいなかったら、私はあの暗い影から抜け出せなかったと思う」
「姉さん、すべて過ぎ去ったことよ。考えないようにしましょう」
「うん、考えないようにするわ。でも私の質問に答えてないわね。早く言って、あなたたちの間はいったいどうなってるの?藤堂辰也はあなたに妊娠してほしくないの?」安藤心の話題はまた戻ってきた。
安藤若菜は風で乱れた髪の毛を耳にかけながら、淡々と言った。「私が子供を望んでいないの」
安藤心は驚いて目を見開いた。こんな結果になるとは思わなかった。
「あなたが...子供を望まないから、彼も望まないの?!藤堂辰也の考えはどうなの、彼は子供が欲しいの?」
「姉さん、なぜそんなことを聞くの?」
「もちろんあなたのためよ。あなたのわがままを放っておいたら、いつか彼に捨てられても泣き場所もなくなるわ。早く教えて、彼は子供が欲しいの?」
安藤若菜は突然、安藤心の切迫した口調に違和感を覚えた。
彼女を心配しているというより、むしろ藤堂辰也に関心があるようだった。