第306章 私はあなたを気にかけ始めた4

彼はあの藤堂辰也なのだ、彼女が嫌っている男、彼女を苦しめる悪魔。

どうして彼が王子のように高貴だという錯覚を抱いてしまったのだろう。

安藤若菜は冷たく彼を見つめた。藤堂辰也は彼女が目を開けたのに気づくと、一瞬驚いた後、笑みを浮かべて尋ね返した。「やっと目を覚ましてくれたか?」

彼女は彼の言葉に答えず、周りを見回した。自分が病院のベッドに横たわっていることに気づいた。

安藤心が彼女を陥れたあの場面を思い出し、瞳孔が縮み、目には抑えきれない痛みと憎しみが浮かんだ。

「私は死ななかったのね?」彼女は淡々と尋ねた。

藤堂辰也は彼女の手をしっかりと握り、目尻や眉に笑みを浮かべた。「ああ、お前は死んでいない。俺が閻魔の手からお前を奪い返したんだ。だからこれからは、俺の許可なしにお前は死ねないよ。」

安藤若菜は冷淡に自分の手を引き抜き、冷たい目で見つめた。「どうしてあなたが私を救ったの?」

男は眉間にしわを寄せた。「どういう意味だ?俺がお前を救ったのに、それがお前の反応か。『ありがとう』くらい言えないのか?」

安藤若菜は唇を歪めて冷笑した。「そうね、あなたに感謝すべきよね。」

私の死を望んでいたことに感謝するわ、いつも私の前で偽善を演じる苦労に感謝するわ、あなたが与えてくれた数々の苦痛と傷に感謝するわ!

彼女の口調は嘲りと軽蔑に満ちていた。彼が彼女の本心からの感謝だと思うはずがなかった。

男は目を冷やかし、黒い瞳で彼女をじっと見つめた。「安藤若菜、俺の前でそんな皮肉な態度を取るな!はっきり言え、どういう意味だ?」

彼女の意図も、彼の彼女に対する気持ちももう重要ではなかった。

安藤若菜は軽く目を閉じ、淡々と言った。「疲れたわ、休みたい。」

彼女は間接的に彼に出て行くよう告げていた。藤堂辰也は怒りで顎を引き締め、この恩知らずな女を絞め殺したい衝動に駆られた。

彼は彼女を救い、彼女を気にかけ始め、彼女に優しくすると決めたのに。

それなのに彼女はこんな態度を取るなんて、本当に腹が立った!

しかも彼女は今、衰弱しきっていて、彼も彼女をどうすることもできない。男は無力感と苛立ちを感じていた。

この女は、いつも彼を怒らせる本質を持っていた。

彼は急に立ち上がり、大股で病室を出た。そこに留まる気など微塵もなかった。