彼に向き合うと、まるでごく普通の友人に向き合っているようだった。
彼女の心の中には、もう彼はいないのだろう。そうでなければ、こんなに平静でいられるはずがない。
男の心はいらだちを覚えた。何かを失いそうになっているような気がして、それを掴もうとしても掴めない。
その感覚は、ただ二文字で表すなら、無力。
しかし彼はそれ以上考えることなく、藍田佳人の具合が悪いことを思い出し、複雑な気持ちで急いで車を走らせて帰った。
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河村遠は安藤若菜に執着していた。彼は人を見る目があると言い、安藤若菜こそ自分が探していたタイプの人間だと言った。
そのため彼は毎日安藤若菜に電話をかけ、食事に誘い、彼女との感情を育もうとして、自分の提案を考慮してもらおうとした。
安藤若菜は河村遠がとても良い友人だと思っていたが、夫婦になるのは本当に不可能だった。