彼に向き合うと、まるでごく普通の友人に向き合っているようだった。
彼女の心の中には、もう彼はいないのだろう。そうでなければ、こんなに平静でいられるはずがない。
男の心はいらだちを覚えた。何かを失いそうになっているような気がして、それを掴もうとしても掴めない。
その感覚は、ただ二文字で表すなら、無力。
しかし彼はそれ以上考えることなく、藍田佳人の具合が悪いことを思い出し、複雑な気持ちで急いで車を走らせて帰った。
————
河村遠は安藤若菜に執着していた。彼は人を見る目があると言い、安藤若菜こそ自分が探していたタイプの人間だと言った。
そのため彼は毎日安藤若菜に電話をかけ、食事に誘い、彼女との感情を育もうとして、自分の提案を考慮してもらおうとした。
安藤若菜は河村遠がとても良い友人だと思っていたが、夫婦になるのは本当に不可能だった。
彼女がはっきりと断ると、河村遠は笑って「商売は仁義なしだが、友達にはなれるじゃないか」と言った。
それなら彼女も受け入れられた。
彼女には友達が多くなく、話が合う友人に出会えたことを自然と大切にしていた。
河村遠がまた彼女を誘おうとしたとき、安藤若菜はその日少し疲れていたので、出かけないと言った。
しかし彼は、彼女に会いに行くから、ちょうど彼女の家に遊びに行くと言った。
安藤若菜が住所を伝えると、男はすぐにやって来た。
……
しばらくして、藤堂辰也も来た。島村おばさんが彼にドアを開け、彼がリビングに入ると、寝室から男女の笑い声が聞こえてきた。
彼は眉をひそめ、大股で歩いて行き、半開きのドアを押し開けた。
寝室では、安藤若菜がベッドに横たわり、河村遠がベッドの端に座り、二人で一緒にコメディ映画を見ていた。
藤堂辰也の心に突然怒りが湧き上がった。彼女は他の男が堂々と彼女の寝室に入ることを許しているのか!
いや、安藤若菜はそんな軽い女ではない。
もしかして、彼らはすでに付き合っているのだろうか?
そう考えると、彼の心は締め付けられ、怒りはさらに強くなった。彼の頭の中には一つの考えしかなかった。この男を追い出し、安藤若菜の世界から消し去ること!
突然誰かが入ってきたので、映画を見ていた二人は驚いた。