第468章 隠れた

「お腹が少し空いたわ、ケーキを一つ持ってきてくれる?」

「かしこまりました」メイドは彼女の身分を知っていたし、若様が彼女をどれほど大切にしているかも知っていた。彼女の命令に従わないわけにはいかなかった。

そう言うと、安藤若菜は自分の寝室に入った。メイドは階下に降りて、お皿にケーキを一切れ乗せて持ってきた。ドアをノックして中に入り、彼女に渡した後、また掃除に戻った。

若菜はケーキをトイレに捨てて流し、数分待ってからドアを開けて出て、お皿をメイドに渡した。

「お皿を下に持っていって」

彼女の言うことはそのまま従うべきこと。メイドはお皿を持って階下に降りようとした。若菜はメイドの目の前で寝室に入り、ドアを閉めた。

メイドが階下に降りると、彼女はこっそり寝室から出て、ドアを閉め、書斎に忍び込み、棚の中に隠れた。

しばらくすると、メイドが入ってくる音が聞こえた。メイドは十数分間掃除をして、それから出て行ってドアを閉めた。

誰もいないことを確認してから、若菜はようやく棚から出てきた。

机の上にはデスクトップパソコンがあった。彼女は慎重に電源を入れ、緊張しながら画面を見つめた。藤堂辰也がパスワードを設定していないことを願った。そうでなければ、彼女の希望は消えてしまう。

パソコンが起動したが、やはりパスワードが必要だった。

若菜はがっかりした。なぜ神様は彼女の味方をしてくれないのだろう?

彼女は藤堂辰也の誕生日を入力してみたが、パスワードは違った。自分の誕生日を入力しても、やはり違った。

思いつくパスワードをすべて試したが、どれも違った。

焦っていると、階下から車のエンジン音が聞こえてきた。藤堂辰也が帰ってきたのだ。

若菜は急いでパソコンの電源を切り、寝室に戻ろうとしたが、あまりに慌てていたため、立ち上がる際に机の上の書類を落としてしまった。

彼女は慌てて書類を拾い上げて元に戻したが、もう寝室に戻る時間はなかった。藤堂辰也に自分の行動を知られるのが怖くて、彼女は再び棚の中に隠れるしかなかった。

藤堂辰也が帰ってきて最初にしたことは若菜を探すことだった。陶山おじさんは彼女が二階で寝ていると言った。

男は何も言わず、大股で階段を上がった。寝室のドアを開けると、ベッドは空っぽで、若菜の姿はどこにもなかった。