第51章

「兄さん！」小林恵は書類から顔を上げ、眼鏡が冷たい光を放った。「小林家がすでに冷泉家のものになったことを知っているのに、なぜまだこんなことをするの？」

「……」小林北詳はしばらく言葉に詰まり、老いた顔に恥ずかしさが浮かんだ。この妹は生まれつき女らしさがなく、最も優れているのは人の心を見抜く力と、容赦ない鋭い言葉だった。

今回の失敗は予想通りだった。誰が彼にこの抜け目のない妹に目をつけさせたのか、彼女が持つ小林家の株式の半分を騙し取って清算しようなどと考えたのか。ああ……

彼は立ち上がり、ズボンのしわを払った。「妹よ、その株は綺音の嫁入り道具にしておきなさい。兄さんは用事があるから先に行くよ」と厚かましく言い残し、大股で部屋を出て行った。彼の別の救いの神を探しに行くところだった。

冷泉家の最上階で、小林北詳は秘書に無視され、目の前で忙しく働く冷泉辰彦のエリートチームを見ながら、目を白黒させていた。秘書の女性は非常に職業意識が高く、予約なしでは冷泉社長に会えないと言った。

時間は切迫し、腹立たしさが募る中、彼には予約する余裕などなかった。そして、この廊下のソファで2時間も待たされ、そんな時間はないと思った。思い切って、厚かましさを発揮し、秘書の制止を振り切って社長室に飛び込んだ。

「小林社長、社長は今忙しいので、このように入ることはできません……」秘書は後ろで焦って飛び跳ねていた。

助手と買収問題について話し合っていた冷泉辰彦は、ドアが開く音を聞いて冷たく顔を上げた。目が入口の人物を一瞥すると、彫りの深いハンサムな顔に即座に不快感が浮かんだ。

「社長、小林社長はどうしても止められませんでした……」秘書はおろおろと口を開き、心の中で「神様お助けください」と何百回も叫んでいた。クビにならないように。

「冷泉若旦那、とても重要な話があります」小林北詳は厚かましく、へつらうように声を出し、強引に入ってきた無礼さをすっかり忘れていた。

冷泉辰彦は剣のような眉を上げ、有能な助手と秘書を退けた。「君たちは先に出ていなさい」そして鋭い目を小林北詳に向け、目を細めた。「ちょうどいい、私も君に用があった！」

会社に到着したとき、お腹の痛みがどんどん強くなり、刺すような痛みを伴い、千雪は会社に一日の休暇を取らざるを得ず、病院に直行した。