第91章

「明後日に帰国するの?」今度は、冷泉辰彦の剣のような眉が疑わしげに上がった。辰浩のやつから電話で早めに帰国するとは聞いていなかったな。これはまた何の芝居だ?

まあ、帰ってくるのはいいことだ。あいつは海外に5年もいて、その間一度も帰ってこなかった。学業が忙しくて時間がないと言っていた。時間がないのも無理はない、結婚式は兄である自分より先に挙げるとは、本当に情に厚い弟だ。

そう考えると、彼の気分は少し良くなった。そこで言った。「明後日、俺が空港に迎えに行く。俺と彼女のことは、辰浩が帰ってきてから話そう!」

そう言うと、祖母や父親にはもう構わず、千雪を抱き寄せながらゆっくりと歩き去った。

千雪は双方がそれぞれ一歩譲歩したのを見て、心の底でほっと息をついた。この冷泉家の人たちが注意をこの男の弟に向けてくれれば、彼女はもうこの人たちの間で板挟みになって苦しむことはないだろう。彼女はこの男の盾になり続けたくはなかった。

そのため気分も少し晴れやかになり、まだ彼女を抱き寄せている男の手を引いて、彼に告げた。「おばあさんもここに住んでいるの。会いに行きたいわ」

「いいよ、一緒に行こう」冷泉辰彦は意外にもためらうことなく同意した。

彼女は冷泉様に感謝すべきだった。おばあさんは冷泉様によって非常に良く世話をされていた。高級な看護師、専門の栄養士、マッサージ師、すべて冷泉様が手配したもので、おばあさんのために高級病室も用意してくれた。これらは院長から聞いたことだった。

「おばあさん」彼女と冷泉辰彦が部屋に入ると、おばあさんは大勢の年配の友人たちを招いて、部屋で楽しく談笑していた。とても嬉しそうで、顔色も良かった。

「千雪、辰彦、やっと来たのね」おばあさんは入り口に立つ二人を見て、さらに喜びで口が閉じられないほどで、急いで手招きして彼らを呼んだ。

「こちらは私の姪っ子、そしてこちらは姪の夫よ」おばあさんは二人の手をしっかりと握り、誇らしげに皆に紹介した。「辰彦は普段忙しいから、院長に頼んで私のために栄養士とマッサージ師を手配してもらったの。ほら、この広くて明るい部屋も彼と千雪が私のために選んでくれたのよ。環境はいいでしょう?」