第102章

そそくさと洗顔を済ませ、シンプルで上品なチェックのスカートに着替えて、部屋から逃げ出した。

冷泉家の人たちはとても変わっていて、食事の時間以外は皆それぞれ自分のことをして、言葉さえ交わさない。当然、冷泉邸全体も寂しく冷え切っていた。それはあの独裁的な大奥様がいるせいなのかもしれない。

朝食を終えると、彼女が知り合ったばかりの冷泉辰浩はカメラを持って急いで外出し、風景を撮りに行った。「蘭」という名の中年の美しい婦人、つまり冷泉允拓の母は、冷泉大奥様の周りでお茶を出したり水を運んだり、気遣いをしていたが、大奥様の嫌悪の眼差しに怯えて、もう一言も発することができなかった。冷泉様はもちろん忙しく外出して客人や友人に会いに行っていた……しかし、あの冷泉允拓の姿だけが見当たらなかった。

冷たい客間、冷たい家。千雪はそれを見て、外に出て日光浴をすることにした。

玄関に向かうと、椿野さんに呼び止められた。椿野さんはまず彼女を「若奥様」と呼び、それから言いたいけれど言えないという様子で、困惑した彼女を見つめた。

彼女は椿野さんの呼び方に眉をひそめた。この「若奥様」という呼び方は、彼女にとって皮肉なものではないだろうか?

その後、視線で椿野さんに何か用事があるのかと尋ねた。

椿野さんは周りを見回し、冷泉大奥様が二階に上がったのを確認してから、やっと小声で千雪に尋ねた。「若奥様、あなたのお母様は井上郁心さんですか?」

千雪は少し驚いて、うなずいた。

「なるほど、郁心にそっくりだわ」椿野さんは独り言のように言った。「最初に若奥様を見たとき、郁心という娘を見たのかと思いました」

思いがけずここで母親を知っている人に出会うとは。それなら、彼女は実の父親を見つけることができるのだろうか?千雪は老婦人の袖を引っ張り、水のような瞳に多くの疑問を浮かべ、答えを求めるように促した。

「郁心は若奥様に冷泉家で下働きをしていたことを話さなかったのですか?郁心は今どこにいるの?元気にしてる?あの子は可哀想な子だった。何の問題もなかったのに、大奥様に追い出されてしまって……」

冷泉家で下働き?千雪は大きく驚いた。母は大奥様に追い出されたのか?

彼女はもう一度椿野さんの袖を引っ張り、もっと多くの答えを得たいと願った。