第110章

「辰彦！」冷泉大奥様の冷たい声が割り込んできて、雲井絢音が孫に近づいていくのを促した。「自分を責めるのはやめなさい。外の記者たちがもう門を押し破りそうよ。行って対処して、彼らが好き勝手に話すのを止めなさい」

「好きに言わせておけばいい。俺は千雪のそばにいる」

「辰彦、あなたは冷泉家の名誉をどうでもいいと思っているの？今のような状況で、彼らに好き勝手言わせたら、私たち冷泉家の評判に影響するのよ、わかっているの？」

「くだらない名誉なんか！」冷泉辰彦は廊下の壁を一発殴りつけ、ただ苦しげに目を伏せた。

「辰彦、お前はここで千雪を見ていなさい。私が記者たちの問題に対処する」冷泉敏陽は母と息子を無力な目で見て、外で押し寄せている騒がしい記者たちに対応するために出て行かざるを得なかった。

松本秀子は怒りで顔を真っ赤にし、手術室の方向を冷たく一瞥して、怒りながら座った。

「お祖母様、辰...お兄様は大嫂の状態をとても心配しているだけです...」雲井絢音は冷泉辰彦を一目見て、おとなしく側に寄り添い、静かに取り持った。

さらに二時間後、酸素マスクをつけた千雪がようやく看護師によって手術室から運び出された。

医師はマスクを外し、重々しく言った。「患者は過度のショックで感情が高ぶり、今は出血を止めましたが、残念ながら、お子さんは失われました」

「千雪、ごめん」冷泉辰彦は担架の上で紙のように青白い顔をした小さな女性の頬を優しく撫で、自責の念に駆られた。子供がいなくなったことは大したことではない、彼女が元気でいてくれさえすれば、彼女が生きていてくれさえすれば。

「そうではありますが、患者は現在まだ危険期を脱していません。重症患者室に移して観察する必要があります。事故の際に頭部が地面に衝突したため、脳震盪の可能性があります...」

「小さな人」冷泉辰彦は彼女の冷たい小さな手を口元に持っていき、心を痛めながらキスをした。「必ず良くなってくれ、海辺のアパートに連れて帰るから、そこで結婚しよう...」

「さて、今すぐ患者を病室に移す必要があります。危険期が過ぎるまでは、家族の面会は控えてください...今は入院手続きをしてください」

そう言って、医師はマスクと手袋を外し、看護師に千雪を隔離病室に運ぶよう指示した。